きょうも一日が終わる

きれいなものをきれいな文章で切り取りたい。

すきまのある日常

好きになった本は、ふと思い出しては読み返す。読み返すたびに、心に響く部分がまるで違うことがあり、驚いてしまう。すっかり忘れていた場面に、妙に反応してしまったり。なぜそんなふうに、読むたびに感じ方が変わるのか。答は簡単。自分が変わったからである。本の中身は変わらないのだから。(略)
『すきまのおともだち』の「すきま」とは、現実の流れとはちがう、変わることのないものが続いている場所のこと。主人公は、なんども意図とは無関係に突然「すきま」に落ち、数日そこで過ごしたのち、突然現実の世界へもどる。主人公の現実の時間がどんどん過ぎていっても「すきま」の世界の人は、変わらない。それは、本を開いて別世界へ誘われることと同じだ、と気がついたのだ。
江國香織『すきまのおともだち』解説(東直子)

この東直子さんの解説、秀逸です。
ミヒャエル・エンデはてしない物語』にもあるように、物語を生きることはいつか現実に戻ってくることとワンセット。
だからこそ物語の世界で生きることは素敵だし、そうしたいと思えるんです。
現実のことをちょっぴり忘れて(でもきっぱり忘れるわけじゃあない)、少し大人びた勇敢なおんなのこや、天邪鬼なお皿に会いたいと思ったら、私たちは『すきまのおともだち』を開けばいい。
そうしたら「ものごとを有りの儘に受け止められないなんて変わってる」とおんなのこが笑って迎えてくれるはず。
それが、物語を読む素晴らしさだと思います。